持分買取の価格

全面的価格賠償を命じる判決が出してもらうための要件として、価格が適正に評価され、共有物を取得する人に支払能力があって共有者間の実質的公平を害しないことがあるということは前に述べました。

ここで価格が適正に評価されることですが、これは正常な取引価格である必要があります。

不動産の価格には、公示価格、路線価、固定資産税評価額がありますがどのどれでもありません。

この正常な取引価格を算出するには不動産鑑定士による鑑定が必要となります。不動産鑑定士に鑑定を依頼し鑑定書を裁判所に提出するという方法もありますが、裁判所の鑑定手続で鑑定をするのが無難です。

判決に至る前の交渉段階では不動産業者による査定を用いるケースがよくありますが、これはあくまでも交渉のための参考資料として用いるものであり、判決では査定書が採用されることはありません。

また、共有持分そのものを鑑定する場合は、共有持分そのものだと不動産の利用などに制約が生じることから、共有補正といって正常な取引価格から2割程度減少させた金額で算定されるのが通常です。

しかし、全面的価格賠償で共有者の1人が他の共有者の持分を取得することで不動産の所有者が1人になる場合は、持分を取得する人にとっては不動産の利用に制約のない権利を取得することになるので2割程度減額するという共有補正は行いません。

しかも、この共有補正を行わないというだけでなく、さらに限定価格といって正常な取引価格よりも高額な価格が鑑定されることがあります。

限定価格というのは、例えば土地所有者が隣接不動産を購入することによって元々有していた不動産の価値が上昇する場合に隣接不動産の購入代金に元々有してた不動産の価値増加分をも考慮して取引価格を算定すべきとするものであり、不動産鑑定基準に定められています。

これを具体的に2000万円の価値のある土地の2分の1の共有持分を有している人が他の持分権利者から2分の1の持分を買い取るという事例で見てみます

2000万円の2分の1だと1000万円ですが、これに2割減の共有補正がされると2分の1の持分の価格は800万円となります。
この人が他の共有者から2分の1の持分を買い取る場合、元々持っていた持分に制約がなくなることから元々の持分の価格も1000万円に増加することになるので、持分の購入価格に元々の持分の増加分を加えても採算がとれることになります。
そうすると持分を取得する場合の鑑定額は最大で1200万円になる可能性はあります。
もっとも、価値増加分の利益を全て購入金額に上乗せして売却側の利益とするのも不公平であり売主買主に配分されるという考えになりますが、それでも通常の取引価格よりも高額で鑑定されることになります。

不動産鑑定評価基準での限定価格の例示の中には共有持分を他の共有者が買い取って所有者が1人となる案件は含まれていないのですが、全面的価格賠償の案件で限定価格によって鑑定され、この鑑定結果を支持した裁判例として東京地裁平成27年7月15日の判決があります。

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